Sonar が失敗した原因についての検討

最近 Sonar という物理的に近くにいる人とのコミュニケーションをはかりやすくすることで人のコネクションを作っていくモバイルアプリケーションがあったことを知りました。 日本では流行っていた声は聞きませんでしたが、栄光と失敗を経験したスタートアップの一つとして考えられているようです。 創業者のBrett Martin が Postmortem を発表していて興味を持ったので本人にも連絡して翻訳してみました。

この記事はPostmortem of a Venture-backed Startupを Hagikura が翻訳したものです。正確な表現は原文を参照してください

*1 2014/1/30 @ さんにご指摘いただき Jack Welch の引用文を修正しました

以下翻訳

Sonar を知らない人達のために少し説明しておこうと思います。Sonar とは近くにいる人とのつながりを持ちやすくすることであなたの周りの世界を少し良いものにするAmbient Social Networking(訳者注:周りの人、ものを活用したソーシャルネットワーキング。以下同じ単語は原文使用)の先駆けとなったモバイルアプリケーション でした。

何百万人ものユーザにダウンロードされ、AppleGoogle から100ヶ国以上でプロモーションされ、TechCrunch Disrupt や Ad:Tech Best Mobile Startup など数多くの賞を受賞し、著名な投資家やベンチャーキャピタルから200万ドル以上の投資を受け、300を超える New York Times, CNN、CNBC、TechCrunch、TIMEなどのメディアで紹介されました。

ただ私達は失敗しました。

私達は Sonar でたくさんの正しいこと、間違ったことをしました。そこから学んだいくつかのことをここで紹介したいと思います。

プロダクト、市場に対しての方向性について

“人々が望むものを作りなさい” —Paul Graham

ユーザの声に耳を傾けること:聞くべきではなかったこと

私達は当初 Facebook, Twitter, Foursquare に対応して Sonar をリリースしました。ほどなくして、ユーザからたくさんの LinkedIn のサポートのリクエストがくるようになりました。表向きは彼らは権威のある専門家と会うために Sonar を使いたかったのだと思います。

私達は急いで LinkedIn のサポートを追加しました。効果があったかって?何もありませんでした。私の予想では追加のリクエストをしていた人達は実際に Sonar を使っていたユーザではなく、使ってみようかなと思っていた人達だったのだと思います。私達はそれが人々が求めているものだと思ってしまったのです。

ここからの学び

"この機能があったら使ってみるのに"といった声を聞くのは危険です。実際に使ってみるまではユーザはこんなものが欲しいとあれこれ想像するのですが、起業家と同じようにそれらはよく間違ったものになります。

エンタープライズ企業は彼らの顧客が彼らの要望に対して本当にお金を使ってくれるか検証すべきです。メディアやソーシャルネットワークの企業は実際のユーザの行動を観察、分析することに注力すべきなのです。

ユーザの声に耳を傾けること:聞くべきだったこと

最もよくリクエストされた機能は私達の Check-in 機能に対して "foursquare のような地図" を提供することでした。その機能は追加せずに私達はユーザがアプリ内で共有したことをテキストとして "@Sonar" から読めるようにしました(訳者注:@SonarTwitter アカウントと Facebook ページだと予想)。確かに地図を作ることは構想にはありましたがそれが実現されることはありませんでした。 "Ambient Social Networking" の未来を作るのに忙しすぎたのです!

失敗でした。人々は面白みがない"@Sonar"が好きではなかったのです。彼らは "@Sonar" の更新を共有することを止めました。 そもそも彼らの友達は"@Sonar"の更新に興味がなかったのです。Facebook はそのことに気が付き私達の投稿をユーザの目につかないようにしました。 私達は既にユーザが使用している機能(Check-in機能のこと)を改良することなく、代替案の検討を数えきれないほど行い無駄にしてしまいました。

ここからの学び

あなたはおそらく____についての Steve Jobs ではありません。

既に使われているもの(Check-in機能)を改良することはほとんどの場合において空に城を浮かべること(新しい機能の仮説、検証を行うこと)より投資効率が良いものです。新しいものを作る前に既存の製品の最適化/局所解を求めるべきなのです!

成長か成熟か

私達は製品を成長させるか成熟させることのどちらがより重要か、について相反する助言をたくさんの賢明な人達から受けました。 私達は成熟させることを重視し、実際それは桁違いによくなりました。ただ誰も気にしませんでした。

ここからの学び

もしソーシャルネットワークをを作っているなら成長こそ間違いなく唯一重要なことです。 成熟させることも必要ですが、売上があるしきい値を超えないかぎりは成熟を考えることすら意味がありません。 (しきい値は Seed、Series A、広告を売る段階それぞれによって変わってきます)

割く時間を少なくすべきだったこと

“集中とは1000の良いアイデアに対して No と言うことである”  — Steve Jobs

イベント

私は製品を売り込もうとした小さい Meetup によろよろと向かっているときに私の顧客獲得戦略が間違っていたことに気が付きました。 火曜日の夜11時、疲れきっていましたが家に帰ったら今度は通常の仕事が待っています。 欠席にするわけにはいかないので参加はするものの、そのみすぼらしいバーでは他の誰かの Sonar に反応して彼らのアプリケーションをインストールしてくれと頼まれるのを避けるために人を避けるようにしていました。

ここからの学び

イベントは市場調査、事業開発、採用のために行うものであって10,000,000 ダウンロードを達成するために行うものではありません。

ブランディング代理店

MTV、Kraft、Digitasのような代理店が私達に連絡してきたとき、彼らが何を求めているかわかりませんでした。 彼らは全てお膳立てした状態で私達のことを売り込んでくれるわけではなく、理解するのに少なくとも10回の会議をする必要があったのですが、私達の事業がうまくいったら私達の支持者に取り入れるように目をつけていたのです!

ここからの学び

代理店に対しては丁寧に、ただあなたが支持者を獲得するまでは彼らの売り言葉は先送りにして接してください。 もしあなたが支持者を獲得したら自ずと彼らはやってきます。

投資家は当然のこととしてこれを知っています。もしあなたが"XYZ"ブランドを構築することでとてつもない顧客と収益を獲得できると話していたら滑稽に聞こえることでしょう。

サイドプロジェクト

2011年の冬に私達は Wired Magazine と、彼らの Times Square の短期間営業店舗の顧客に店舗内のおすすめ商品を表示させるパートナーシップ契約を結びました。 その"とるに足らないプロジェクト"は開発に6週間かかりましたが、 Wired で働いている、クールな人達と関わりになったこと以外はこれといった利益はありませんでした。

ここからの学び

20%の時間はないのです。3つの最も重要なことを決めてください。そうしたら2番目と3番目は捨ててください。

競合

2012年の SXSW に向けての準備を進めているとき、あるメディアが Highlight (訳者注:HighlightSonar と似たコンセプトの競合 )こそが Sonar の後継となるものであるとでっち上げ、彼らよりもっと都合のいいときしかあてにならない投資家達が私達のことをこきおろし、私は自信を失いかけていました。私達はロードマップの優先付けをしなおし、Highlight と競合する機能(ただ私達の方が遅れている)を優先させるようにしました。 私は平然を装おうとしていましたが内情はひどかったものです。オースティンに向かう飛行機の中で「くそ、俺達が持っていたものを失おうとしている」と思っていたことを今でも覚えています。

ああ!Highlight は特に何をしたわけでもないのに私達はものすごい時間とエネルギーを浪費し、私達自身のビジネスをうまくいかせることを考えるべきときに、脅威にどうやって立ち向かうかを考えて過ごしていました。

ここからの学び

あせらないこと。あるスタートアップが別のスタートアップをつぶすのは完全に勝負がついたと分からせるくらいでないと無理でしょう。

信用できないなら立証してみてください。あなたの競合はあなたがロードマップに持っているのと同じ機能をたくさんリリースしていますか?しているって?ならあなたはあなたのユーザーが何を望んでいるか知っていますか?知らない?いいでしょう、あなたの競合も知りません。 戻ってあなたのユーザーが何を求めているか考えるように!

*ヒント:すでに考えているなら、もう何をするべきか分かっているはずです。

会社の売却

2012年の春に Ambient Social Networking のブームが去った時 Sonar の所有権があった投資家達は資産を売却する時だと判断しました。彼らは "ビッグデータ"のソリューションを探している Daily deals(訳者注:Groupon などのような一日限定のクーポンを配信するようなサービス)の会社と私達を引き合わせるようにしました。 私達はアプリケーションの開発をすることを止め、私達のバックエンドの技術を彼らの問題を解決するように変更していきました。 その時期でも採用を続け、バックエンドの強化をしていましたが、既に縮小傾向にあった私達のビジネスを強化するものではなかったのです。

Daily deals の市場は崩壊していきましたが私達は9ヶ月もの間ミーティングを重ね、数十万ドルものお金をほとんど倒産していた会社に Sonar を売却しようとするために使っていたのです。

ここからの学び

会社は売られるものではありません。買われるものです。買われるための最も良い方法は何か価値があるものを作ることです。そしてそれはあなたが会社を売ろうとしているときは難しいものでしょう。

不協和

Sonar は私が2010年にローンチを助けたインキュベーターから生み出されたものです。誤解のないように言っておきますがそのインキュベーターには Sonar が順調にスタートする助けになってもらいましたし、それ以降も多大な協力をしてもらいました。 しかし不運ながらインキュベーターたちと経営者には構造上の問題が多数ありました。そのいくつかをここで紹介しましょう。

責任の所在と所有権を分離してしまったことは、不明瞭さ、混乱、緊張、フラストレーションを生み出すことにつながってしまいました。 従業員の契約交渉などの日常のことから会社レベルでの決定、例えばいつ会社を売却するかなどに関して関係者の利害を一致させることは常に困難を伴っていました。単に、私達はしばしば対立しあっていたのです。

おそらくインキューベーターのモデルに関して最も有害な一面は、脆いということではなくむしろ支援関係に関するものでしょう。 つまり、誰かは会社を運営、経営していくことに責任を持っていますが所有権は結局は持っていなかったのです。そのような状況で一つのゴールを共有することはとてもうまくいくものではないでしょう。 (訳者注:TechCrunch の記事によると Sonar は複数の関係者が所有していたらしい。Brett 自身も最後期は誰が持っていたか、何をしていたか完全に把握できていたわけではなかった)

最も悲惨な例は私たちのインキュベーターが、(受けていれば会社を再建したであろう)会社の資金繰りを努めていたときのことです。 一ヶ月にも及ぶ議論の末、投資家になるつもりだった人は「これ以上の交渉はできない。48時間に決められなければこの話はなしだ」との条件を提示しました。 会社を再建する希望を持ちながら、私は最後の申し出をインキュベーター達に行いました。「一緒に再建の道を進みましょう。それができないなら私は出て行く」誰もぴくりとも動きませんでした。時は過ぎ投資の話は流れました。約束どおり私は辞任しました。私の子ども同然だった会社を台無しにした彼らを非難しながら。

ここからの学び

John Burroughs はこう述べています。「人は何回でもしくじることができる。ただ誰か他の人のせいにしだすまでは失敗ではない」 どうにもならない厄介な人と関わらないでください。ただどうしてもそういう状況に陥ってしまったときは、境遇を嘆くことに貴重なエネルギーを使うより、うまくいかなければとっとと次に進んでください。

人について

“人々が考え行っていることが重要であると、私たちが信じさせるとき ー そしてその邪魔をしないとき ー 真の競争が生まれる”  — Jack Welch

チームビルディングに関しては現実的になるべき

私達は最初の採用すべき人材、すばらしい Google のエンジニアを逃してしまいました。私達が彼の契約について検討しているとき彼は他のオファーを受けてしまったのです。反対に私達は彼に比べたらずっと劣ると見られていたエンジニアをそのポジションに採用しました。 彼は会社の文化にとても合うと思われませんでしたが、V1をリリースするのに大いに役立ってくれました。

もしあなたが経験豊富な起業家で、たくさんの選択肢を持っているなら絶対に強気の交渉をするべきです。もし初めての起業なら強気の交渉を続けていては一生うまくいかない危険があります。

スタートアップを始めたばかりのころは既に名声がある人は多分あなたと働きたいとは思わないでしょう。未開の地にもダイアモンドが見つかること(名声が確立されていなくても素晴らしい人材が存在すること?)をあなたが示してください、あなた自身がそうであったように。彼らの力を借りればあなたの組織のレベルを高められ、次は偉大な人物にも参加してもらうことができるでしょう。

企業文化は共同創業者

私達は Sonar で素晴らしいチームを作りました。全員が信じられないほど聡明で、情熱を持ち、献身的で勤勉でした。 私達はマイルストーンがあるとビーチに集まりテキーラでお祝いしたものです。厳しいスケジュールの時もみんなその時できるかぎりのことを成し遂げてくれました。私は一緒に働いていた彼らが大好きですし、彼らも同じように感じていたことを信じています。

ですから私達の企業文化は議論を重ねて作ったというよりは自然発生したものだったのです。 もちろん私達はたくさんのブレインストーミングを行いましたし、ゴールもはっきりと宣言しましたが、企業文化のほとんどは私達自身から吸収したものだったと言えるでしょう。

ここからの学び

企業文化を、あなたがいないときに代わりとなってくれる共同創業者だと思ってください。あなたは物事を決定でき、コミュニケーションがとれ、尊敬される人物です。ただあなたがいないときに、みんなにどうすれば良いか教えてくれるのは企業文化なのです。その声を明瞭にし、自信を与えてください。

人を消沈させるような言葉を避けることがこつです。なぜならスタートアップの企業文化は間違いなく創業者を反映しているからです。あなたにできることはあなたが何者であるかをわかってもらうために熱心に働くことでしょう。それを書き出しチームに共有してください。もしあなたが誠実であったなら振る舞いの一つ一つがあなたの価値を高めてくれるでしょう。

これからのこと

“私達はとるに足らないものと戦っていて、私達が勝ったときは私達自身が取るに足らないものになっているだけ。私達はただ崇高なものにこんてんぱんに何度も打ち負かされたいだけなのです。 — Rainer Maria Rilke via Tim O’Reilly"

スタートアップはお金が尽きたら無くなるのではなく、創業者がいなくなった時に無くなるのです。 私はそれまでかけてきたものがどれだけだったとしても、みんながもう一度もっと素晴らしい新しいことを始められるように Sonar から身を引くことを決心しました。 それは難しい決断でしたが戦いに勝つためには一つの局面を諦めなければいけない時もあります。

私はかけがえのない時間、お金、愛を注いでくれた人達、3年もの間働いてくれた同僚、もしくは電話ででも応援してくれた多くの人達に借りができました。 驚くほど素晴らしい同僚、信頼できる投資家、助言を与えてくれた方、支えてくれた家族、友人達に心から感謝します。 Sonar を使っていただいた何百万人ものユーザの方たちに伝えておきたい。あなたたちが Sonar でボーイフレンドに会うことができたという話を聞くだけで全ての努力は報われていました。

私達はあらゆる人はもっと素晴らしい可能性を秘めているという信念を持って Sonar を作っていました。 そしてテクノロジーがそれを可能にするだろうと信じて。 Sonar での経験はその信念を強固にすることに他なりませんでした。ここで学んだ全てのことを糧にして次に何をするか考えるとわくわくして止まりません。

さあはじめましょう。